情緒障害

(1) 情緒障害とは

 

感情や情動、社会性などの情緒面で障害がある場合、
「情緒障害(emotional disturbance)」といいます。

 

情緒障害という言葉は、1961年、情緒障害児短期治療施設の設置が決められたとき、
初めて福祉の分野で使われる様になりました。

 

そして、情緒障害児短期治療施設の利用対象となる情緒障害児について、
中央児童福祉審議会の意見具申では、
「この施設の入所の対象となるべき児童については、家庭、学校、近隣での
人間関係の歪みによって感情生活に支障を来たし、社会適応が困難になった児童、
たとえば登校拒否、緘黙(かんもく)、引っ込み思案などの
非社会的問題を有する児童、どもり、夜尿、チックなどの
神経性習癖を有する児童などである。」というように記されています。

 

この中央児童福祉審議会の意見具申が記されたのは1967年で、
当時は戦後の少年非行の第2のピークにあたる頃でした。

 

よって、情緒障害児短期治療施設は、
情緒障害は少年非行の温床であるという当時の考えがあり、
少年非行の予防と早期対応策として、設立されています。

 

しかし、情緒障害は、子どもの生活を顧みない産業社会化への急激な進みや、
消費社会化への変化など、社会病理的な現象として
子どもの心身や発達に現れた「ひずみ」であると言えます。

 

情緒障害の表れ方は、時代状況や環境的な条件によって異なります。

 

子どもを観察し、適切な支援をしていくことが大切です。

 

情緒障害の分類

 

情緒障害を現象的な側面から分類すると以下の様になります。

 

知的障害や自閉症など、脳気質性の障害は除外されます。

 

 ・非社会的行動: 不登校、引きこもり、緘黙(かんもく)、
        引っ込み思案、孤立など。

 

 ・反社会的行動: いじめ、乱暴、反抗、授業妨害、怠学、盗みなど。

 

 ・神経性習癖: 吃音、夜尿、遺尿、チック、爪噛み、偏食、拒食など。

 

(2)情緒障害の現状

 

子どもの心身の発達は、現在、危機的状況にあります。

 

こどものからだのおかしさ

 

学校の教員が、「子どものからだのおかしさ」についてまとめた
実態調査を見てみると、多くの子どもが、身体(心)の不調を感じながら
生活していることが分かります。

 

・近年増えている子どものからだのおかしさ

 

 アレルギーがある。
 すぐ「疲れた」という。
 授業中、じっとしていない。
 背中が丸い。
 歯並びが笑い。
 視力が低い。
 皮膚につやがない。
 喘息症状がある。
 体調に不調がある場合、症状の説明ができない。
 平熱が36度未満である。
 首や肩がこっている。
 なんとなく保健室に来る。
 腹痛を訴える。
 頭痛を訴える。

 

児童相談所の相談内容

 

児童相談所の相談内容の区分には、情緒障害は設けられていません。

 

ですが、性格行動相談、不登校相談、適正相談、育児・しつけ相談などの
子どもの育成上の課題を扱う育成相談は行われています。

 

このうち行動上の問題に属するものとして、
注意欠陥多動性障害(ADHD)や強迫性障害、行為障害として医学的診断を受けた
子どもの相談も認められます。

 

 強迫性障害: 強迫観念や強迫行為があることにより、
       日常生活に著しい苦痛や困難がもたらされる状態にある。

 

 行為障害: 他人をいじめる、その人の所有物を破壊する、他人をだます、
      盗みを犯すなど、主要な社会規範を持続的に侵害する状態にある。

 

また、情緒障害児短期治療施設に入所する子どもの特徴として、
不登校児童、被虐待児童、学校不振児童など、
非社会的行動を理由とする子どもの割合が増えている現状があります。

 

中でも、反応性愛着障害を呈する被虐待児童の入所が急増しています。

 

また、学校教育から排除されている不登校児童も多くいます。

 

(3) 情緒障害の背景

 

大人たちが子どもに適応を強いる社会に、
多くの問題が発生していることから、
子ども達の心身に不調が生じたり、
不登校や学級崩壊など学校での学びからの逃走を図る子どもが
増えていると考えられます。

 

 

家庭

 

家庭養育を支える社会全体の養育力が低下し、
家庭観の養育力の格差が拡大している昨今、
それが情緒障害の子どもを増加させていると考えられます。

 

虐待は子どもの生命や人格形成に大きく、そして深刻な影響を及ぼします。

 

そして、過保護や過干渉、一人ぼっちの食事、遅い就寝時間、
外遊びの不足なども、同じように子どもの生命や人格形成に大きく、そして深刻な影響を及ぼします。

 

社会では、子どもにとって、その子どもの親との人間関係の割合が
相対的に大きなものになります。

 

ですから、結果として、親の教育のありようによって、
子どもの自然な感情や意欲の発現を妨げ、
子どもの心身に望ましくない影響が与えられてしまうこともあります。

 

地域社会

 

地域社会における人間関係の希薄化は、
高度経済成長と共に進みました。

 

塾やお稽古事など、親から半ば強いられた集まりの場に行く事は多くなっても、
子供同士や、世代を超えて人々が関わりあうことができる場に行き、
考えたり、感じたりしながら遊んだり学んだりすることが少なくなっている昨今です。

 

子ども達は、自発的な生活体験と、それを意味付けてくれる他者との出会いによって
自尊心や自己肯定感を培います。

 

子ども達が自らの思いや欲求を自由に表現できる場、
多様な関係の中で発育できる場を与える事、
そして、生活の創造が求められます。

 

学校

 

適応を望む日本の文化的特徴を象徴する空間の一つでもある「学校」。

 

子どもは、国家社会に役立つ人材になることを目的に、
学歴を重視した仕組みのもとで、学校教育を行ってきました。

 

そして、校内暴力などの意義申し立てに対し、
子どもへの管理や監視の強化を図り、対応してきました。

 

その結果、暴力行為やいじめ、自殺等の問題が深刻化してしまう事態となっています。

 

大人である私たちは、子どもに学びの意味を十分に伝えることができず、
たとえば不登校の子どもを学校に適応できない問題児として
扱ってしまうこともあります。

 

ですが、不登校の原因として多くの子どもが指摘しているのは、
友人関係を巡るトラブルやいじめ、学業の不振など、
学校側の対応に関わる問題が多いということを改めて認識しておく必要があります。

 

また、現代の社会は、子どもにとっても、
不安やストレスを高める多くの要因を抱えた社会であるといえます。

 

自分らしい生き方を追求する道筋が示されず、
単一のルールを守らなければ、適応できない問題児だと扱われる社会では、
子どもは未来に対して悲観的な気持ちを抱くのは当然のことです。

 

(4) 情緒障害に関わる制度

 

情緒障害への対応は、情緒障害の相談援助活動や情緒障害を抱えている子どもへの
専門的な援助活動が必要です。

 

また、現代社会が子供のストレスをうみ、
情緒障害を引き起こしていると考えれば、
情緒障害を生み出す社会的基盤の変革を目指す活動も必要です。

 

情緒障害の相談援助の窓口

 

情緒障害の相談援助活動の窓口は、
市町村保健センター、母子健康センター、児童相談所、
福祉事務所、家庭児童相談室などです。

 

・市町村保健センター・母子健康センター

 

 主に乳幼児を対象とした発達や育児支援、
心の健康づくりに関する相談が行われています。

 

・児童相談所

 

 子どもの性格や行動上の問題、不登校、適性、
しつけなどに関わる育成相談が行われています。

 

・家庭児童相談室

 

 福祉事務所が設置しています。
 偏食等、比較的軽い情緒障害の問題に対応しています。

 

情緒障害児の専門的な治療を行う施設

 

情緒障害児の専門的な治療を担う施設には、
情緒障害児短期治療施設があります。

 

情緒障害児短期治療施設は、児童福祉法第43条の2で、
「軽度の情緒障害を有する児童を、短期間入所させ、
又は保護者の下から通わせて、その情緒障害を治し、
あわせて退所した者について相談その他の援助を行うことを目的とする。」
と定めています。

 

情緒障害児短期治療施設は、子どもに対する心理治療、生活指導、
教育活動と同じように、家庭機能の回復や親子関係の調整を目的とする
家族療法も行っています。

 

施設の利用は、12歳未満とされていましたが、在所期間の長期化に伴い、
現在は、満20歳まで利用できるようになっています。

 

発達障害者支援センター

 

2004年の「発達障害者支援法」の制定により、
今まで法律の谷間で置き去りになっていた自閉症や、
アスペルガー症候群、注意欠陥多動性障害など、
発達障害児の支援を目的とし、専門的な相談支援を受け付ける機関、
「発達障害者支援センター」が設置されています。